はじめまして、フリーライターの佐伯奈緒です。
百貨店で和雑貨と伝統工芸品のバイヤーを12年務め、いまは観光地のお店や伝統文化を取材しています。
バイヤー時代は、器や漆の産地を年に何度もまわっていました。
工房へ向かう道すがら、雨戸が閉まったままの大きな家をいくつも見かけたものです。
「あの家はもう誰も住んでいなくて」と聞くたびに、もったいないと感じていました。
その古い家が、ここ数年で宿に生まれ変わる例が増えています。
なかでも目につくのが、プライベートサウナを備えた一棟貸しの宿です。
この記事では、空き家の数字、サウナ付きの一棟貸しが広がっている背景、実際の事例、宿にするときに押さえておきたい制度を順に見ていきます。
実家の空き家をどうするか迷っている方や、古民家の宿を始めてみたい方の参考になればうれしいです。
空き家は900万戸を超えた
数字で見る空き家の増え方
総務省の令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)によると、2023年10月時点の空き家は900万2千戸でした。
総住宅数に占める割合(空き家率)は13.8%で、どちらも過去最高です。
| 調査年 | 空き家数 | 空き家率 |
|---|---|---|
| 2003年 | 659万3千戸 | 12.2% |
| 2008年 | 756万8千戸 | 13.1% |
| 2013年 | 819万6千戸 | 13.5% |
| 2018年 | 848万9千戸 | 13.6% |
| 2023年 | 900万2千戸 | 13.8% |
1993年からの30年間で、空き家はおよそ2倍になりました。
このうち、売りにも貸しにも出ておらず別荘でもない空き家が385万6千戸あります。
使い道が決まらないまま置かれている家が、それだけあるわけです。
多くは「相続した実家」から生まれている
国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査では、空き家を手に入れた経緯の57.9%が「相続」でした。
親が亡くなって実家を受け継いだものの、自分は別の土地で暮らしている。
そんな形がいちばん多いのです。
古い家は、置いておくだけでも傷みます。
2023年12月には改正空家等対策特別措置法が施行され、管理が行き届かない「管理不全空家」に市区町村が指導や勧告をできるようになりました。
勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が外れます。
「とりあえずこのまま」は、以前より選びにくくなっています。
なぜ「サウナ付きの一棟貸し」なのか
家ごと借りる旅が合う人が増えた
一棟貸しは、家をまるごと1組で使う宿です。
家族や友人同士なら、ほかの宿泊客に気をつかわずに過ごせます。
台所や庭も使えるので、何泊かして土地の暮らしに近い過ごし方もできます。
古い家は部屋数が多く、間取りもゆったりしています。
客室を細かく区切るより、一棟でまるごと貸すほうが建物の良さを残しやすい。
古民家と一棟貸しの相性がいいのは、このためです。
サウナに通う人は1,600万人台で落ち着いている
日本サウナ総研の「日本のサウナ実態調査2026」によると、2025年度に年1回以上サウナに行った人は約1,669万人と推計されています。
ピークだった2019年度の約2,824万人からは減りました。
一方で、月4回以上通う人は約254万人と、前年の約187万人から増えています。
ブームで人が押し寄せる時期は過ぎて、習慣としてサウナに通う人が残った。
数字からは、そんな姿が見えてきます。
人目を気にせず貸切のサウナで過ごせることは、それだけで旅の目的になります。
サウナ好きの友人たちが宿を選ぶとき、まず「サウナ付きかどうか」で絞り込んでいるのを見て、なるほどと思いました。
国も古民家を宿にする方針を掲げている
2026年3月に閣議決定された観光庁の第5次観光立国推進基本計画には、「古民家等の歴史的建築物を宿泊施設等として整備し、観光資源として活用する取組を進める」と書かれています。
2030年度までに、歴史的な建物を観光まちづくりの核にする地域を400地域に広げるのが目標です。
同じ計画では、2025年の訪日客1人あたりの地方部での宿泊数が1.4泊で、目標の2泊に届かなかったことも示されています。
都市部以外に泊まってもらうには、地方に泊まりたくなる宿が要ります。
空き家を宿に変える動きは、この流れとも重なります。
空き家を宿に変えた2つの事例
滋賀県高島市「Auberge RUKAWA」
国土交通省近畿地方整備局の空き家活用事例集に、サウナ付きのオーベルジュ(食事を楽しむための宿)が載っています。
滋賀県高島市の「Auberge RUKAWA」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物 | 1900年頃に建った木造2階建て、延べ193.21㎡ |
| 空き家になった時期 | 1995年頃 |
| 開業 | 2024年6月 |
| 総事業費 | 2,982万4千円(うち国250万円、市250万円) |
| 運営体制 | 社員1名(所有者本人)とパート6名 |
| 利用状況 | 週3回程度、宿泊は1日2組まで |
30年近く空いていた家を、所有者自身の会社が改修して開業しました。
サウナ棟は増築したものです。
改修は地元の事業者に頼み、パートも地元で雇っていると紹介されています。
国と市の補助金を差し引いても、2,400万円を超える事業費です。
事例集には、今後の展望として「スタッフの増員、稼働率の向上」が挙がっています。
小さな宿を回していく手間が、数字からよく伝わってきます。
伊豆を中心に20棟を運営する和心の「MAIGRE」
もう一つは、企業が空き家の再生を事業として広げている例です。
かんざし屋wargoや箸や万作といった和小物の専門店を全国で展開する株式会社和心は、子会社のマイグレ株式会社を通じて、サウナ付き貸別荘「MAIGRE」を運営しています。
マイグレが設立されたのは2020年8月で、コロナ禍で観光業が大きく落ち込んでいた時期です。
和心の2026年8月の決算説明資料によると、静岡県を中心に、東京を含む観光地で20棟の宿泊施設を運営しています。
空き家を仕入れて改装し、サウナや天然温泉、露天風呂、BBQ設備を加えて宿にする流れです。
施設が多いのは伊東市で、マイグレの棟が集まったエリアもあります。
2025年には金沢と東京にも施設を開きました。
なかには新築の棟もありますが、事業の柱は空き家の改装です。
MAIGREの公式サイトでは、自社のサウナを「ちょうどいいサウナ」と紹介しています。
汗がたくさん出るサウナ空間、清潔な水風呂、景色のいい外気浴の場の3つがあれば十分、という考え方です。
大げさな設備を競うより、古い家の落ち着きと気持ちよく汗をかける場所をそろえる。
空き家の再生と相性のいい割り切り方だと感じました。
有価証券報告書によると、サウナ付き貸別荘の運営を中心とする事業の売上高は、2025年12月期で約1億9,929万円、前期比47.7%増でした。
和心全体から見ればまだ小さな事業ですが、伸び方ははっきりしています。
売り場づくりを見てきた立場からすると、物販の会社が宿を手がけるのは意外な組み合わせではありません。
和心は商品の企画から店舗の内装までを自社で手がけてきた会社です。
空間をつくる力が、そのまま宿づくりにも生きているように見えます。
マイグレの代表取締役は、和心の代表でもある森智宏氏が務めています。
18歳で和柄アクセサリーのブランドを立ち上げ、和小物の専門店、そして宿へと事業を広げてきた経緯は、和心を率いる森智宏氏の歩みと事業の全体像をまとめた記事で詳しく読めます。
空き家を宿にする前に知っておきたいこと
旅館業か民泊か
空き家に人を泊めてお金をもらう方法は、主に2つあります。
| 項目 | 旅館業法(簡易宿所) | 住宅宿泊事業法(民泊) |
|---|---|---|
| 手続き | 許可 | 届出 |
| 営業日数 | 上限なし | 年間180日まで |
| 向いている使い方 | 一年を通して宿として営業したい | 自宅や別荘の空いている期間だけ貸したい |
一年を通して事業にするなら、旅館業の許可を取るのが基本です。
簡易宿所の場合、客室の延床面積は33㎡以上が条件で、宿泊者を10人未満にするなら「3.3㎡×宿泊者数」以上あれば足ります。
一棟貸しの少人数の宿なら、古い民家でも満たしやすい基準です。
民泊は始めやすい反面、180日の上限があり、自治体の条例でさらに期間が絞られることもあります。
200㎡以下でも建築基準法への適合は必要
住宅を宿に変えるのは、建築基準法でいう「用途変更」にあたります。
変更する床面積が200㎡を超えると建築確認の手続きが必要で、200㎡以下なら手続き自体は要りません。
ただ、手続きが要らなくても、建物は法律の基準に合っていなければなりません。
2026年5月には厚生労働省と国土交通省が連名で通知を出し、旅館業の許可を出すときに書類で確かめるよう自治体に求めました。
200㎡以下の場合は、建築士による適合の証明書が必要になります。
古い家は、今の基準に合わない部分を抱えていることが多いものです。
直す範囲によって費用は大きく変わるので、物件を買う前、改修を決める前に、建築士と保健所に相談しておくと安心です。
サウナの安全対策は宿の責任になる
2025年12月、東京都港区赤坂の個室サウナ施設で火災があり、利用者2名が亡くなりました。
これを受けて、厚生労働省は全国のサウナ施設の状況を調べています。
厚生労働省が2026年4月に出した通知によると、サウナのある旅館業の施設は5,240施設でした。
そのうち非常用ブザーを備えていたのは63.5%で、公衆浴場業の85.8%より低い割合です。
一棟貸しは、従業員が建物にいないのが普通です。
だからこそ、緊急時に連絡が届く仕組みや、内側から押せばすぐ開く扉が欠かせません。
消防の基準も変わりました。
総務省消防庁は「近年のサウナブームを背景に」、屋外のテント型やバレル型(木樽型)のサウナ向けに「簡易サウナ設備」という区分を設け、2026年3月31日から新しい基準が始まっています。
庭にバレルサウナを置きたいなら、所轄の消防署に早めに相談してください。
人手と稼働率は最初から計算に入れる
RUKAWAの例でも分かるとおり、宿は開けてからが本番です。
計画の段階で、次のことを決めておくと後で困りにくくなります。
- 清掃とシーツ交換を誰がするか
- サウナや温泉設備の点検を誰がどのくらいの頻度でするか
- チェックインの対応と、緊急時の駆けつけをどうするか
- 平日や閑散期の空室をどのくらい見込むか
- 近所への説明と、騒音やごみのルールをどう伝えるか
自分ですべて回すのが難しければ、運営を任せる方法もあります。
和心の資料にも、外部のオーナーが持つ物件の運営を引き受ける仕組みが描かれています。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で、どちらも過去最高
- 空き家の多くは相続した実家で、放っておくほど選べる道が狭まる
- サウナに通う人は1,600万人台で落ち着き、国も古民家を宿に使う方針を掲げている
- RUKAWAやMAIGREのように、空き家を宿に変えた例は個人にも企業にもある
- 宿にするには、旅館業の許可、建築基準法への適合、サウナの安全対策、運営の人手が欠かせない
産地をまわっていたころ、閉まったままの家を見ても、私には「もったいない」と思うことしかできませんでした。
いまは、その家を宿として使い続ける道がいくつも見えてきています。
手元に使っていない実家があるなら、まずはサウナ付きの一棟貸しに一度泊まってみるのもおすすめです。
掃除の行き届き方や設備の置き方を見るだけでも、自分の家を宿にしたときの姿がぐっと具体的になります。
最終更新日 2026年10月6日 by unratt







