「もし今、震度7の巨大地震が来たら、このマンションは大丈夫なのだろうか…」
日本に住む私たちにとって、地震は決して他人事ではありません。特に、長く住み慣れたマンションの耐震性について、漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
こんにちは。一級建築士の田中健一です。私は15年以上にわたり、特にマンションの耐震診断や耐震改修の分野で、多くの居住者の方々の不安と向き合ってきました。その経験から断言できるのは、「専門的な知識がないと、ご自身のマンションの本当の耐震性を知るのは難しい」ということです。
しかし、ご安心ください。この記事では、専門家の視点から、マンションの耐震性を確認するために最低限知っておくべき「3つのチェックポイント」を、誰にでも分かるように具体的に解説していきます。この記事を読み終える頃には、ご自身のマンションの耐震性を確認するための具体的な第一歩を踏み出せるようになっているはずです。大切な命と資産を守るため、一緒に学んでいきましょう。
Contents
マンションの耐震性を左右する「新耐震基準」と「旧耐震基準」
まず、マンションの耐震性を語る上で絶対に欠かせないのが、「新耐震基準」と「旧耐震基準」という2つの言葉です。この違いを理解することが、ご自身のマンションの耐震性を知るためのスタートラインとなります。
1981年6月1日が大きな分かれ道
日本の建築基準法における耐震基準は、1978年に発生した宮城県沖地震の甚大な被害を教訓に、1981年6月1日に大幅に改正されました。この日を境に、それ以前の基準を「旧耐震基準」、以降の基準を「新耐震基準」と呼びます。
両者の最も大きな違いは、想定している地震の規模です。
- 旧耐震基準(1981年5月31日以前):震度5強程度の地震で建物が倒壊・崩壊しないことを目標としています。つまり、震度6強以上の大規模な地震に対する備えは十分とは言えません。
- 新耐震基準(1981年6月1日以降):震度6強から震度7程度の大規模な地震が発生しても、建物が倒壊・崩壊せず、中にいる人の命を守ることを目標としています。
この基準の違いは、実際の地震被害においても明確な差として現れています。新耐震基準で建てられた建物は、大規模な地震でも被害が軽微であるケースが多いのです。
「建築確認日」が重要!完成年ではない点に注意
ここで非常に重要なポイントがあります。マンションが新耐震基準か旧耐震基準かを見分けるのは、建物が完成した「完成年(竣工年)」ではなく、建築工事の許可が下りた「建築確認日」であるという点です。
例えば、1981年10月に完成したマンションでも、建築確認申請が1981年5月31日以前に行われていれば、それは「旧耐震基準」で設計されている可能性があります。そのため、単純に「1981年以降に建ったから安心」と判断するのは早計です。正確な基準を知るためには、必ず「建築確認日」を確認する必要があります。
【ポイント1】建築確認日で「耐震基準」をチェック
最初のチェックポイントは、ご自身のマンションが「新耐震基準」と「旧耐震基準」のどちらで建てられているかを確認することです。これは、耐震性を知る上で最も基本的な情報となります。
まずは書類で基本情報を確認しよう
建築確認日を調べるには、以下の書類を確認するのが最も確実です。
- 建築確認済証(けんちくかくにんずみしょう)
- 検査済証(けんさずみしょう)
これらの書類は、マンションが建築基準法に適合していることを証明する重要なもので、通常は管理組合が大切に保管しています。まずは、管理組合の理事会や管理会社の担当者に問い合わせて、これらの書類を閲覧できないか確認してみましょう。
もし書類が見当たらない、あるいは保管されていない場合は、マンションが所在する市区町村の役所(建築指導課など)で「建築台帳記載事項証明書」を取得することで確認できます。これにより、建築確認がいつ行われたかを正確に知ることができます。
旧耐震基準だった場合の考え方
もし、ご自身のマンションが旧耐震基準で建てられていたと分かっても、すぐに「危険だ」と悲観する必要はありません。旧耐震基準の建物がすべて耐震性が低いわけではなく、中には頑丈に造られているものもあります。
大切なのは、現状を正しく把握し、次のステップに進むことです。旧耐震基準であった場合は、より詳細な「耐震診断」を受けて、建物の具体的な強度を調べることが不可欠になります。これが、2つ目のチェックポイントにつながります。
【ポイント2】耐震診断報告書で「Is値」をチェック
2つ目のチェックポイントは、専門家による「耐震診断」の結果を確認することです。特に、診断結果で示される「Is値(アイエスち)」という指標が、マンションの耐震性を客観的に判断する上で極めて重要になります。
耐震診断とは?マンションの健康診断
耐震診断とは、既存の建物が大規模な地震に対してどの程度の耐震性能を持っているかを専門家が調査・評価することです。人間で言えば「健康診断」のようなもので、建物の構造的な強度を数値で明らかにします。
耐震診断は、一般的に以下の3つの段階に分かれています。
- 一次診断:設計図書をもとに、壁や柱の量から簡易的に耐震性能を評価します。
- 二次診断:現地調査でコンクリートの強度を測ったり、鉄筋の状態を確認したりして、より詳細に評価します。
- 三次診断:コンピューターシミュレーションを用いて、大地震時の建物の揺れや変形を高度に解析します。
これらの診断は、個人ではなく管理組合が主体となって実施します。もし耐震診断が実施されていれば、その結果をまとめた「耐震診断報告書」が保管されているはずですので、管理組合に閲覧を依頼しましょう。
Is値「0.6」が耐震性の目安
耐震診断報告書の中で最も注目すべきなのが、「Is値(構造耐震指標)」です。この数値が大きいほど、建物の耐震性能が高いことを示します。Is値の評価基準は、以下のように定められています。
| Is値(構造耐震指標) | 耐震性能の評価 |
|---|---|
| 0.6以上 | 震度6強~7の地震でも倒壊・崩壊の危険性が低い |
| 0.3以上~0.6未満 | 震度6強~7の地震で倒壊・崩壊の危険性がある |
| 0.3未満 | 震度6強~7の地震で倒壊・崩壊の危険性が高い |
つまり、Is値が0.6以上あるかどうかが、震度7クラスの地震に耐えうるかどうかの大きな目安となります。たとえ旧耐震基準のマンションであっても、診断の結果Is値が0.6以上であれば、現行の新耐震基準と同等の安全性が確保されていると判断できます。
もしIs値が0.6未満であったとしても、適切な「耐震補強工事」を行うことで耐震性を向上させ、Is値を0.6以上に引き上げることは可能です。耐震診断や改修に関するより詳しい情報については、国土交通省が公開している「マンション耐震化マニュアル」が非常に参考になりますので、ぜひ一度ご覧ください。
また、耐震診断や耐震補強設計を専門とする設計事務所に相談することも有効です。例えば、マンション改修設計の専門企業である株式会社T.D.Sは、創業45年以上の実績を持ち、耐震診断から補強設計、施工管理まで一貫したサポートを提供しています。独立系の一級建築士事務所として、管理組合の立場に立った中立的なアドバイスが期待できます。
【ポイント3】修繕履歴で「耐震補強工事」の有無をチェック
3つ目のチェックポイントは、過去に「耐震補強工事」が実施されているかどうかです。特に旧耐震基準のマンションや、耐震診断でIs値が0.6未満と判定されたマンションでは、この補強工事の有無が耐震性を大きく左右します。
どのような補強工事が行われたか
耐震補強工事には、建物の構造や状態に応じて様々な工法があります。代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 耐震壁の増設:地震の横揺れに抵抗する壁を新たに設置したり、既存の壁を厚くしたりする工事です。
- 鉄骨ブレースの設置:柱と梁で囲まれたフレームの中に、斜め方向に鉄骨の筋交い(ブレース)を入れて補強します。
- 柱の補強:既存の柱の周りに炭素繊維シートや鋼板を巻き付けて、柱の強度と粘り強さを向上させます。
これらの工事が適切に行われているかどうかは、管理組合が保管している「改修工事記録書」や総会の議事録を確認することで把握できます。どのような工事が、いつ、どの範囲で行われたのかをチェックしましょう。
「耐震基準適合証明書」は信頼の証
旧耐震基準のマンションであっても、適切な耐震補強工事を行い、Is値が0.6以上になるなど、現行の新耐震基準と同等の耐震性が確保されたと認められた場合、「耐震基準適合証明書」という公的な証明書を取得できます。
この証明書は、そのマンションが安全であることの客観的な証拠となるだけでなく、以下のようなメリットもあります。
- 住宅ローン減税の適用:中古住宅購入時に、築年数の要件を満たさなくても住宅ローン控除が受けられます。
- 税金の軽減:不動産取得税や登録免許税が軽減される場合があります。
- 資産価値の向上:売却時に、買い手に対して安全性をアピールでき、有利な条件につながることがあります。
2026年4月の法改正で耐震化がよりスムーズに
これまで、耐震補強工事のような大規模な改修は、区分所有者の4分の3以上の賛成が必要(特別決議)とされ、合意形成のハードルが高いという課題がありました。しかし、2026年4月に施行される改正区分所有法により、建物の建て替えや大規模な修繕に関する決議要件が緩和され、状況によっては出席者の過半数の賛成で可決できるようになります。これにより、今後マンションの耐震化がより一層進めやすくなることが期待されています。
耐震診断・工事の費用と補助金活用
耐震化の必要性は分かっていても、やはり気になるのが費用面です。ここでは、耐震診断から補強工事までにかかる費用の目安と、負担を軽減するための補助金制度について解説します。
気になる費用相場は?
耐震化にかかる費用は、マンションの規模や構造、劣化状況によって大きく変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 耐震診断 | 約2,000~3,500円/㎡ |
| 補強設計 | 数百万円~(工事費の10~15%) |
| 補強工事 | 総額数千万円~数億円(一戸あたり数十万~数百万円) |
(※設計図書の有無や建物の状況により変動します)
決して安い金額ではありませんが、これは未来の安全への投資です。そして、これらの費用負担を軽減するために、様々な補助金制度が用意されています。
賢く活用したい補助金制度
国や多くの自治体では、マンションの耐震化を促進するために、補助金や助成制度を設けています。例えば、以下のような支援が受けられる場合があります。
- 東京都:各区市町村で、耐震診断や補強設計、改修工事の費用の一部を補助しています。特に、多くの人が利用する緊急輸送道路沿いの旧耐震マンションについては、診断費用を都が全額負担する制度もあります。詳しくは、東京都耐震ポータルサイトで確認できます。
- 横浜市:管理組合が実施する耐震診断の費用の一部(例:費用の2分の1、上限150万円程度)を補助する事業を行っています。
- 大阪市:耐震診断から改修工事まで、段階的な補助制度を設けており、例えば改修工事費用の23%(上限3,000万円/棟)といった手厚い支援を行っています。
これらの補助制度を活用するには、必ず事前に自治体の窓口に相談し、申請手続きを行う必要があります。ご自身のマンションが対象になるか、どのような支援が受けられるか、まずは管理組合を通じて確認してみることをお勧めします。
まとめ
今回は、ご自身のマンションが震度7の地震に耐えられるかを確認するための、3つのチェックポイントについて解説しました。
- 建築確認日で「新耐震基準」か「旧耐震基準」かを確認する
- 耐震診断報告書で「Is値」が0.6以上あるかを確認する
- 修繕履歴で「耐震補強工事」が実施されているかを確認する
これらのポイントを一つひとつ確認していくことで、専門家でなくてもご自身のマンションの耐震性の基本を把握することができます。まずは、この記事を参考に、管理組合や管理会社に問い合わせてみてください。「自分の住まいのことを知る」こと。それが、漠然とした不安を解消し、安心して暮らすための、そしてあなたの大切な資産を守るための、最も確実な第一歩です。
地震はいつどこで起こるか分かりません。しかし、備えることはできます。この記事が、皆さんの防災意識を高め、具体的な行動を起こすきっかけとなれば、専門家としてこれほど嬉しいことはありません。ぜひ、今日から行動を始めてみてください。
最終更新日 2026年2月12日 by unratt







